田渕直也のトレーディング・テキストブック(5)
第5回 予想は当たらない
ここまでの議論を一回整理してみましょう。
市場が効率的で、今現在で参照可能な情報を正しく織り込んでいるなら、市場の動きはランダムなものとなり(たまたま当てることは出来ても)予測することは出来なくなります。一方で、市場が効率的ではなく、参照可能な情報を正しく織り込んでいないなら、市場の動きは何らかのパターンを示すようになり、正しい分析をすることで市場の裏をかいて収益を上げることが可能です。実際の市場は、効率的に見えるときと、効率的でないように見えるときがあります。
しかし、データから見ると、市場の価格変動は正規分布に近く、したがってランダムな動きにきわめて似ているといえます。これは市場の動きを予想することが、全く不可能ではないとしても、極めて困難であることを示唆しているように思われます。前回見たのは米国の株価指数ですが、基本的には多くの市場で同じような傾向が見られます。少なくとも、参加者が多く、取引が活発に行われている代表的な市場はほぼ例外なく正規分布に近い価格変動を見せています。これは、高給取りのファンドマネージャーが、平均すると市場には勝てていないという事実にも整合します。
ここで、第一の教訓が導かれます。
どれだけ優れた分析をし、どれだけ相場の先行きに自信があったとしても、市場が予想通りに動かないことは、市場の性質からいって当たり前のことなのです。だから、トレーディングでは、常に自分の予想が外れることを念頭に置く必要があります。「ここで相場が下がるはずがない」などと考えるのは禁物です。どれだけ勝ち続けたとしても、それはたまたまであるかもしれず、常に相場が予想とは逆に動く可能性を忘れるべきではありません。逆に、予想が外れても悲観することはありません。それはたまたま外れただけかもしれないからす。ですから長くトレーディングを続けていくためには、予想を当てにいくのではなく、予想が外れることも頭に入れ、そのときに致命的な打撃を受けないようにすることが何よりも重要だということになります。
このLesson1からは、もう一つ重要な原則を導き出すことができます。少なからぬ投資家が市場よりも正しく将来を予想することが可能ならば、市場にはもっと特定のパターンが強く表れるはずだと思われます。市場がランダムウォークに近い動きを見せているということは、市場が常に正しいわけではないものの、誰よりも正しく将来を予測していることが多いことを示唆しています。だから、将来を予測しようとするときには、まずは市場に聞いてみるべきです。市場を起点に将来のことを考えるアプローチを、私は予測における「マーケット・アプローチ」と呼んでいます。
次回はこのマーケット・アプローチから話を始めたいと思います。
(つづく)