エベレストに賭け、相場に生きた男 中島寛の物語(第19回/全20回) ~シグマベイスキャピタル清水正俊~
~植村直己 冬のマッキンリーに消え、35年が過ぎて ~
中島を通じて知り合った植村直己の記憶も鮮烈に残っている。サウスコル第1次アタック隊で松浦輝夫(早稲田大学OB)と共に日本人として初めてエベレスト登頂に成功した植村直己(明治大学OB)であったが、その後は登山家・冒険家としていくつもの失敗も重ねていた。
或るとき中島は、親友でもあった植村から「世界初のマッキンリー冬期単独登頂を目指す」と電話をもらったそうである。マッキンリー登頂経験のある中島が、「彼は焦っているな。冬のマッキンリー単独は危険だ」とつぶやいたのを覚えている。
中島の予感は的中した。1984年2月12日、植村は43歳の誕生日に世界初のマッキンリー冬期単独登頂を果たしたが、翌2月13日に行われた交信以降は連絡が取れなくなり消息不明となった。植村は、寡黙で、底知れぬ意志の強さを感じさせる男だった。