ファンダメンタル分析とテクニカル分析、どちらに軍配? 「アンカー(anchor)」がキーワード!! 株式市場と分析手法(5) ~図解!!投資研究~
市場 VS. 情報効率性、時間・経路依存性
ファーマの効率的市場仮説の本質は、情報がどの程度浸透して株価が形成されているかという「情報効率性」と、その帰結として過去の株価水準や動きがどの程度影響して次の株価が形成されているかという「時間・経路依存性」の統合仮説です。この観点から、これまでの議論を基に、市場をプロトタイプ化してみました。
「ランダムウオークの市場」が存在するとすれば、情報効率性は無定義です。経済データや企業情報は、その内容ではなく単なる物理的インパクトとして作用することも排除されない概念となります。
一方、「酔歩」とも呼ばれるように過去の動きとは無関係に、次の一歩が踏み出されるので、時間・経路依存性は無しです。
これに対し、「現実に近いと推定される市場」の 情報効率性は非効率です。非効率という表現は「反効率」と同義です。ファーマの「効率的」という概念が、高レベルの情報浸透を要求しているからで、その排他的対極概念として使用しています。
一方、株価は過去の動きや水準に影響を受けながら形成されるので、時間・経路依存性は有りです。
ファンダメンタル分析かテクニカル分析か、どちらに軍配?
ランダムウオークの世界再考
以下に5つのチャートを添付しました。株価のチャートでしょうか、それともFXのチャートでしょうか。実はすべて、コンピューターで作り出した「ランダムウオーク」の動きです。無限のバリエーションがあり得ますから、ほんの一例です。
以下は、本ブログの「田渕直也のトレーディング・テキストブック」(第9回)からの引用です。
「ランダム・ウォークの世界では、価格はいつもランダムに動いているだけなので、価格が上昇しやすくなっているとか、下落しやすくなっているというような意味でのトレンドは存在しません。ところが、ランダム・ウォークをコンピューターでシミュレーションしてみると、実際の市場と同じようなトレンドと見られるものが頻繁に出現します。それがシミュレーションであると告げられなければ、多くの人は「この市場は上昇トレンドにあるから、今後も上昇が続く可能性が高いだろう」などと予測するに違いありません。
人は、ただ単にランダムな動きの中にも(勝手に)秩序を見出し、(勝手に)トレンドを感知するのです。詳しい説明は省略しますが、これは、人類が進化する過程で培ってきた脳の作用によるものと考えられています。
つまり、市場におけるトレンド(と我々が見ているもの)には、本当はランダムに動いているだけなのにトレンドと勘違いしているものと、冒頭に述べた価格増幅的なフィードバック機能によって価格上昇確率や下落確率が変化する本物のトレンドが混在していると考えられるのです。」
私(学長)はかつて、幾人かのプロトレーダーや市場研究者に、ランダムウオークのチャートであることを隠して、「株価のチャートか、FXのチャートか、どちらのチャートに見えますか」と質問したことがあります。約8割の人が「FXのチャートに見える」と答えました。株価とFXでは、動きのどこかが違うようです。ギザギザの度合いでしょうか。
価格変動とアンカー(anchor)
現実の市場は冒頭に述べた2つのプロトタイプ市場が合体したものと見るのが妥当のような気がします。だとすると、投資分析手法の観点から言うと、「情報効率性」と「時間・経路依存性」の組み合わせで考えることが必要となります。その際、「株価がアンカーと繋がっているか」という観点がキーワードになるでしょう。
アンカー(anchor)とは船の錨のことです。船が停泊するとき錨を下ろします。波風が立っても錨につながれているので、どんどん遠くまで漂流して行く心配はありません。
株価は重いアンカーで繋がれている
株価は企業価値の反映であることに疑いの余地はありません。決算内容を中心に、その他の企業情報の反映です。この意味で株価は「アンカーに繋がれている」と考えられます。株価が大きく動いてもその範囲は重い錨のおかげで、ある一定範囲に留まることが推定されます。これがファンダメンタル分性とテクニカル分析が共に有効となる理由です。
FXのアンカーは軽く、切れることも?
為替相場は様相が少し異なります。米ドル/日本円のFXで言えば、米国と日本の価値の反映です。米国も日本も企業のような決算報告書はありませんし、株に比べれば情報量も圧倒的です。従って両国の価値評価をすることは現実的にはほぼ不可能です。
この意味でFXは「アンカーが軽いので船が漂流し易く、時には切れてしまうこともあり得る」ことが推定されます。その結果、特に時間・経路依存性が希薄であると推定されます。分析手法に関して言えばファンダメンタル分析を主にして、テクニカル分析を行う場合は慎重に対応する必要があるでしょう。
(おわり)