分散投資と周期性の考慮 ~田渕直也のトレーディング・テキストブック~
第39回 分散投資と周期性の考慮
分散投資の基本的考え方は、マーコウィッツという人によって定式化されています。簡単にいってしまうと、異なる対象に分散して投資することによって、ポートフォリオ全体で見たリスクを減らしていくことができるのです。
ただ一つの投資対象に投資するときは、その対象の価格変動がポートフォリオの投資価値の変動に直結します。しかし、多くの投資対象に投資する場合は、ある対象が値下がりしたときに他の対象が値上がりして損失を相殺してくれるケースがあるので、ポートフォリオ全体の価格変動は単一の資産の価格変動よりも小さくなります。
一方で、期待リターンは、投資対象の期待リターンを加重平均したものがポートフォリオ全体の期待リターンになりますから、期待リターンが高いものを集めれば分散投資をしてもこちらは減少しません。つまり、分散投資によって期待リターンを維持しながら、リスクだけを引き下げることが可能になるというわけです。
この夢のような投資手法で前提になるのがリスクプレミアムの存在です。市場が完全に効率的である場合には、どんな投資対象でも国債金利を上回るリターンは期待できません。この国債金利を上回るリターンを超過リターンと呼ぶと、超過リターンがゼロのものをいくら積み上げても、ゼロはゼロのままです。しかし、リスクプレミアムによって正の超過リターンが存在するなら、その正の超過リターンを持つ資産に分散投資をすれば、リスクを抑えながらそのリスクプレミアムを収益化していくことができます。
ただし、前回指摘したように、このリスクプレミアムには強い周期性があります。したがって、分散投資だけではなく、周期性への考慮も不可欠です。
そのリスクプレミアムの周期性をもたらす大きな要因は、金融の緩和度合いと、株式市場など資産市場の全体的な動向です。金融が緩和された状態だと、資金の借入が容易にでき、また国債などの安全資産の利回りが低い状態に押さえつけられるので、少しでも高い利回りが期待できるもの(つまり、国債よりもリスクが高いもの)に資金が流れていくことになります。
こうした資金の流れが株式などのリスク資産の価格を押し上げていきます。リスク資産(株など)の価格が安全資産(国債)の価格よりも上昇すると、両者の価格差が縮小するので、リスクプレミアムは縮小していくことになります。リスク資産の価格が割高になっていくと言い換えることもできます。そして代表的なリスク資産である株式市場のリスクプレミアムが縮小すると、それ以外の高リスク資産にも資金は流れていくようになり、やがてはジャンクボンドや不動産、さらにはゴルフ会員権にまで投資の対象は広がっていきます。こうした広範なリスクプレミアムの縮小がもたらされる局面がいわゆるバブルだと言っていいでしょう。
バブル期には、高リスク資産の価格がすべからく割高となり、投資収益の源泉となるはずのリスクプレミアムが押しつぶされてしまうので、こうした時期に高リスク資産へ投資することには高い代償が伴います。押しつぶされた(縮小しすぎた)リスクプレミアムはいずれ何かのきっかけで急拡大します。その過程で、高リスク資産が今度は一斉に売られて行きますが、通常、この反動は急激に起き、しかも流動性の低下を伴うことが普通です。流動性の低下とは、要するに誰も買わなくなるので売るに売れなくなることを意味します。プロスペクト理論による塩漬け心理とこの流動性の低下が伴って、高リスク資産は売れないままに値下がりしていき、あれよという間に巨額の含み損を生み出してしまうことになるのです。
こうした事態を避けるためには、相場の流れに乗って一気に投資をするのではなく、長期的な観点で少しずつ投資資産を積み上げていくという考え方が重要になってきます。いわば投資タイミングの分散です。また、誰もが浮かれていて相場が活況なときには投資資産を少しずつ減らしていくか、少なくとも新規投資を控えるというような冷静な逆張り的感覚も必要です。
このように、リスクプレミアムに焦点を合わせた投資をする場合には、トレンドを追いかけるときとは異なったやり方が必要であり、それに沿ったディシプリンが必要となるのです。
田渕直也(シグマベイスキャピタル フェロー)
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