エベレストに賭け、相場に生きた男 中島寛の物語 黒いチューリップ(第13回/全20回)~シグマベイスキャピタル清水正俊~
このようにして、出資に伴う株券の発明は、必然的にバブルとその崩壊をもたらすこととなった。バブルとその崩壊の歴史については枚挙に遑がないが、フェルメールが活躍していた当時、オランダで起こったチューリップ球根のバブルが特に有名である。「三銃士」の著者であるアレクサンドル・デュマに「黒いチューリップ」という作品がある。高級品種のチューリップ球根ひとつと邸宅が等価交換されたといわれる、この時代の球根バブルが舞台の小説である。多額の賞金がかった幻の黒いチューリップ、その品種開発に情熱を注ぐ青年主人公に襲い掛かる陰謀と恋の物語である。脚色され、アラン・ドロン主演の映画ともなった。
球根ひとつがなぜ高騰したのか、誰もわからないのでバブルと呼ばれる。経済史の本によると、球根の取引が実需に基づくものから、先物取引やオプション取引の対象に移っていくに従い、バブルが進行したようである。元手が少額でも可能なこれら球根のデリバティブ取引が、証券取引所ではなく私設の取引場がある居酒屋で、自然発生的に始まった結果である。
そういえば1980年頃、米国証券会社のあるエコノミストが当時の球根オプション取引を分析した本を読んだことがある。驚くことに、当時の球根やそのオプションの価格データが残されていた。彼によると、当時形成されていた球根オプションの市場プレミアム(オプションの市場価格)は、ブラックショールズ式から計算される理論値と極めて整合的であったそうである。この分析が正しいとすれば、やはりマーケットは天才と言えよう。あるいは、マーケットを説明できる理論構築をしたブラックとショールズを天才と呼ぶべきか。
文中敬称略
清水 正俊
シグマベイスキャピタル株式会社代表取締役社長
シグマインベストメントスクール学長兼シグマ個人投資家スクール学長
金融理論専門の教育研修・コンサルティング・出版のシグマベイスキャピタル株式会社
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