エベレストに賭け、相場に生きた男 中島寛の物語 円急騰との格闘 (第9回/全20回)~シグマベイスキャピタル清水正俊~
今にして思えば、中島が格闘した相場は、プラザ合意前後の激動の時代であった。その後、欧州危機、リーマンショック、ユーロ危機など円急騰相場が発生したが、マグニチュードの大きさは桁違いであった。なにしろ、一気に1ドルが253円から135円に向かったのである。
なお余談であるが、プラザ合意は1985/9/22(日)で、翌日の日本は秋分の日であった。アベノミクスの株高を支えているのは円安相場であるが、これが円急騰に転じたのが2016/2/11の建国記念日である。ともに、日本が休場日の海外市場で円急騰が始まったことは、単なる偶然とは言えない気がする。
さて、銀行のFXディーリング・ルームには、取引先からの外貨売買注文も絶え間なく入ってくる。これらを瞬時に捌くと同時に、銀行自身でも利益を求め売買を行っている。これらの大小の注文や取引は、さながら大きな丸太同士の間に無数に浮かぶ小枝に似て、相場という大きな流れに翻弄されながら運ばれる。中島の関心はいつもただ一つ、大きな丸太の流れであり、本流であった。中島はその中でも大きな丸太を見つけるとそれに飛び乗り、激流が待っていると察知すると「余裕を持って、ゆっくりと」飛び降りた。鋭い危機察知能力を持っていた。天性によるものか、山で磨かれたものか、エコノミストとしての素養によるものか私には分からない。これを淡々と繰り返すのが中島のディーリング・スタイルだった。
文中敬称略
清水 正俊
シグマベイスキャピタル株式会社代表取締役社長
シグマインベストメントスクール学長兼シグマ個人投資家スクール学長
金融理論専門の教育研修・コンサルティング・出版のシグマベイスキャピタル株式会社
日本の金融理論教育をリードする シグマインベストメントスクール